午前中はテキ屋の連中や祭りの関係者などがばらばらといた通りも、昼過ぎになって親子連れや若いグループなどが何組も歩きだし、やっとお祭りらしい「活気」と呼べる雰囲気が出てきた。
金魚すくいは最近あまり景気が良くない、動物愛護とかエコという流れの中でどうもイメージが悪いらしい、単に魚が嫌という子供も随分いる。
隣の屋台では前歯の無いおっさんが相変わらずイカを焼いていた、あのイカうまいのか?
足下では電動のポンプが、水槽に空気を送る規則的な振動を伝えていた、水面にポコポコと泡がはじけては消えていく。
道行く人は屋台から少し離れた距離から水槽をのぞき込むだけで、これといった興味を示す人は現れない。
おーい、俺が見えてますか?
彼は二本目のビールを飲もうと背後においてあるクーラーボックスに手を伸ばした。少し涼しい風が吹いた気がした。
あの…、
いいですか?
透明な声が聞こえたので慌てて顔を上げると、白いワンピースを着た小柄な女が立っている。
いらっしゃい。
その女は少しだけ微笑むと、膝の裏にスカート部分を折り込む様にして座り、さしていた日傘を肩と首に挟んだ。
代金の400円を受け取り、ポイと呼ばれる薄い紙を貼った金魚すくい用のおなじみの道具を手渡した。
華奢、といって間違いないだろう、彼女の手は細く、着ているワンピースが溶けて見える程に白かった。
その女は水面近くにポイを構え、しばらく金魚の動きを探っていたが、突然顔を上げて彼の顔を見つめ、浅い息をしながらこう言った。
お願い、少しかくまって。
彼女の目は本気だった。