その頃 夫と私の間には、今までにないギクシャクした 嫌な空気が漂っていた。
「どうして 隠していたの? ひどい!子供の相談とかいって 私に内緒で由起子さんに会っていたなんて 信じらんない!」
(由起子とは 夫の元妻のこと)
「悪かったよ。でも会いたくて会ったわけじゃないし 綾乃に嫌な思いをさせたくないと思って・・思いやりのつもりだったんだよ。」
「あとで知る方が どれほどイヤな気分か、あなたにはわからないの?」
いつもなら 杉村の言葉に 納得しやすい私だったが 今回だけは違っていた。
初めての 喧嘩らしい喧嘩だった。
私は20才の時、9才年上で妻帯者だった杉村直之と出会った。
仕事で派遣された先の、部の責任者だった。
社会人になって まだ浅い私だったが、男性社員に対し気になっていた事があった。
それは 朝から不機嫌そうに 挨拶も返してくれなかったり、自分の事は棚に上げて 部下に八つ当たりする男性がなんと多い事か。
そんな中で 杉村は違って見えた。
仕事はテキパキこなし 穏やかで その上 妻子を大切にしているところに 私は憧れを抱いてしまった。
そんなまじめな杉村と私が、どのように結婚に至ったのかは 今は語らないでおこう。
愛さえあれば 何もいらないと覚悟して 手に入れた生活。
しかし ドラマのようにはいかない 複雑な現実に、私は疲れ始めていた。