「すげー霧だな」
「お前の顔見えないぞ」
水上航行するあおかぜに数ヶ所ある見張り台ではこんなやり取りが行われていた。
ハルと野口もその一つ。
WW乗りである彼らも人員不足と年功序列が相まって見張りもやらされている。
「どうなん?」
「何が?」
「またまた……アキちゃんだよアキちゃん。部屋にいったんだろ?」
「知ってるのか!」
「俺だけな」
隠し事の出来ない男No.1だ。この野郎は。
「あんまり信用すんじゃないよ?敵国の女だぞ」
「アキは!」
「わかったわかった。もうやめよう」
考えた事も無かった。アキがスパイかもしれないなんて。
「そういや、整備士のオッサン言ってたな。この辺を荒らし回る月軍艦隊の話」
「確か…」
二人は声をあわせた。
「幽霊艦隊……」
バガッ!!
それと殆ど同時、雷が鳴ったかのような轟音と共に、二人の身体は仲良く吹っ飛んだ。
続いて上がる怒号と悲鳴、緊急サイレン。
(総員戦闘配備!戦闘配備!もう誰でもいいから何とかして!!)
スピーカー越しに美樹が騒ぐ。
「月軍!!」
「幽霊艦隊だ!」
「とんだ疫病神かもしれねーな…」
隣で野口が呟いた。