それからアキは考えた結果、1枚だけ撮影しようという結論に至った。
「別に1枚も10枚も変わりませんけどね」
「風呂の中であんまりバシバシ撮っててもし見られたらどうすんだよ」
「他にお客さんなんかいませんて!この天気だし」
浴場へと続く廊下のガラス戸からは朝よりもさらに激しさを増した雨が降り続いていた。
アキはここにきて躊躇い始めていた。
当人の許可は得ているとはいえ、ほぼ裸の女性を撮影していいものかと。
その点は完全に希美に言い返されたが。
「だったら水着もアウトなんですけど」
アキが撮りたいものはなんだったのか。
アキ自身分からなくなっていた。
混浴に行くと案外早く希美がいた。
暇そうに浴槽に肩まで浸かって天を仰いでいる。
「アキ、ちょっと遅い」
「考えてたんだよ。一番撮りたいもの」
「だからお風呂に入ってくつろいでる私じゃ…」
「いや、それも魅力的だけど、そうじゃない気がする」
希美はよく分からなかった。
「?まぁ…アキの撮りたいタイミングで撮って下さい」
カメラは濡れないよう入り口の荷物置きに置いたまま、アキも湯に浸かった。
「私たちってなんとなく似てますね」
「え?」
「私は勉強、アキはカメラに夢中になってる。なのに何で夢中なのかが自分たち自身、分かってない」
「俺は…」
―なんでカメラだったのか。
亡くなった先輩が言ってた。
写真は言葉と似ている。
楽しい写真を撮って、見れば、楽しい気分になれる。
悲しい写真なら悲しくなる。
相手に伝えたい事を写真に写せればそれが一番だと。―\r
「希美に伝えたい事」
「え?」
「伝えたい事があるから写真で撮ってる」
「へぇ…カッコいいですね」
―私が勉強し続けて誰かに何かが伝わるわけない。
やっぱり私はこんな虚しいことしか出来ないのかな。―