春のぽかぽか陽気の中、明石健介は城崎凛に誘われて、ツーリングに出掛けるところであった。
「ところで、何で俺を誘ってくれたんスか?」
「え?、お友達の方から、明石さんは絶叫マシンがお好きとうかがったものですから……」
「マジ?…………」
健介は、その時点でイヤ〜な予感がしていたが、男らしく覚悟を決めた。
ドルン!ドルン!と重低音が腹に響く。
「これ、何CCなんスか?」
「え?、900CCよ」
「ウソ…」
ドルルル……クワァンッ!
クゥオオオォ――ッ!!
「うわああああぁーっ!」
いきなりカタパルトから飛び出すような爆烈加速に、健介は絶叫していた。
「はい、お疲れさま。コーヒーでもどうぞ。
ウフフッ、お友達の木島さん達って、実は大嘘つきなのね」
「ふぁ〜い… ろうもありあとれふ」
強烈な加速と耳をつんざく爆音に、健介は完全にグロッキー状態。
ろれつさえ怪しくなっていた。
実は、健介は遊園地のジェットコースターが『大の苦手』…なのである。
「大丈夫? そろそろ帰らないと真っ暗になってしまいますけど…」
「もう平気っスよ。
……ただ、帰り道は250キロ以下でたのんます」
「あら、叫んでいた割に良く見てるわね」
「いや、あれは……忘れてくれない?」
「まぁ、アハハハ‥」
健介の返事に、凛は爆笑していた。
「あの、今日はお付き合い頂きまして、ありがとうございます」
「いーえ、どう致しまして。 ……お陰で絶叫マシンが大得意になりそうだしね」
「あら、ウフフッ…でも男性に恥をかかせたお詫びは、私なりにさせて頂きましてよ?」
「へ?、どう言う…」
「何だかあなたって、とっても可愛いんですもの」
その時、夕焼けに伸びていた二つの影が重なった。
(…生きてて、良かった)
やわらかなくちびるの感触を味わいながら、明石健介は感動に包まれていた。
おわり