家に帰ると、母親が新しい恋人と楽しそうに話しをしていた。
「あら、お帰り。今日何食べ…」
母親が全て言う前に、私は自分の部屋へ入った。
「妊娠した」何て母親に言ったら、どうなるか分かってる。
ましてや、レイプされて出来た子なんて…。
日頃から情緒不安定な人だから、きっと喚き散して、私をこの家から追い出すだろう…。
まぁ、
それもいいかも知れない。
あの男とこの屋根の下に一緒に居るよりかは…。
明かりも付けずに、私はどうするべきかを考えたけど、頭が混乱して何も思いつかない。
何だか悲劇のヒロインになった気分…。絶望の縁に立った時、物語なら誰かが救ってくれる。
けど…これは物語なんかじゃないんだ。
私は携帯を手に取った。
理菜に相談するつもりだった。
ブゥーブゥーブゥー
手の中で携帯が鳴る。
晃司からの電話。
私は少し戸惑って、電話に出た。
千恵美:「もしもし」
晃司:「おぅ!今日どうしたんだよ?」
千恵美:「うん…ちょっとあって。ごめんね。」
晃司:「元気ないな。どうした?嫌な事でもあった?」
千恵美:「……何でもないよ!」
晃司:「そうか。何かあったら何でも俺に言えよ…」
千恵美:「……………」
言えるはずがない…。
だって、言ったら絶対に終ってしまう。
全てが崩れてしまうんだ。
母親と父親が壊れたあの時の様に、お互い罵り合って、辛い思いで別れるのは嫌だ。
晃司:「おい!どうしたんだよ。」
千恵美:「…ヒックっ……何でもない。」
私は話しの途中で電話を切って、布団に顔を押し付けて泣いた。
部屋の外からは、母親と母親の恋人が笑う声が聞こえた。