あのあと、止めに入った妖需は突き飛ばされ、ジンが男性に何事か囁くと、男性が逃げていく形となって、事態は収拾を得た。
ディルはというと、フィレーネとジンに脇を固められながら歩いている。
随分と苛立った様子だったけれど、一体どうしたんだろう。
ディルは、怒りっぽい人ではあるけれど、意味もなく怒ったりすることなんて無い。
からかわれて大きな声を出したり、人を小突く事はあるけれど、こんな様子は初めてだ。
「ディル……大丈…」
「……………ぅるさい…」
心配になって声をかけると、掠れた、力無い言葉が帰ってきた。
どうしよう。
フィレーネも体調が悪そうなのに、政府もあんな風では、安心できない。
気がつけば、妖需まで、激しい目眩に襲われていた。
頭、痛い………
若干、ふらふらして。
ぼーっと、する。
視界が、暗くなって――
「妖需さん!?」
メシアの声が、遠くで聞こえる。
そのまま、すとん、と
暗闇に墜ちた
†
あなたは 今
見ていますか
私 と この曇天を
あなたは 知っていますか
この 胸の、痛みを
悲痛な想いに呼応して
唸る 風は
全てを掻き消して
皆 天上に掠われた
†
冷たい風に、肌を撫でられて目が覚めた。
暗く、湿った空気。
先程までの景色とは、似ても似つかない。
それだけではなくて、目の前には、太く黒い鉄柵が聳え立っていて。
暗がりに人の影がない所を見ると、見張りはいないが、仲間達の身も案じられてくる。
武器、荷物の徴収は当然だろうが、後ろ手に拘束をされいきなり牢獄へ投函、というのは、穏やかな話でない。
妖需が眠っている間に、何があったというのだろう。
ここで、このまま大人しくしているべきか、仲間の安否を確かめる。
一瞬だけ、逡巡して。
覚悟を、決めた。