それは、
「構わないが、一つだけ約束して欲しい事がある。」
「何?」
「絶対に触らない事。魂は非常に壊れやすい、触れ過ぎると魂は砕けて、真の意味で、死ぬ事になる。だから、触らないでほしい。」
「わかったわ。触らない。もし、私が触りそうになったら、今みたいに姿を見えなくしてくれて結構よ。」
女は
ぎゅ
と両手の袖をつかんだ。
わかった
「さぁ・・。」
男が赤ん坊を抱き抱える仕草をすると、そこに指を吸いながら眠る赤ん坊が現れた。
ああ、
女は両の目に涙を溜め、袖を握る手に力を込めた。男は赤ん坊の顔が良く見えるように傾けてくれた。
ねぇ
「どうして私に協力して欲しいの?」
本当は、
「君が倒れた時に、君の記憶を消してこの子を連れて行くつもりだった。しかし、待ったがかかってね、」
誰の?
神様の。
「このまま連れて行っては、君にも、この子にも心残りができる。とね、」
へぇ
「神様もたまには、粋な事するのねぇ・・。できれば、この子が奪われる前にして欲しかったけど。」
それを、
「言われるとつらいなぁ。」
まぁいいわ。
「今更言っても仕方ないし。」
俺も、
「君に、聞きたい事があるんだが、」
「何?」
「君は、ひょっとして小さい頃から、幽霊だの、妖精だのが見えていたりしたのかい?」
ええ、
「妖精なんて可愛いものは見たことないけど。」
なるほど
「あともう一つ、子供が死んだと聞かされてもあまり驚かないようだが、・・」
ああ
「何となくね、そうじゃないかって思ってたの。悔しいけど。旦那に誘拐された時、ある程度覚悟はしていたから。」
それにしても、
「落ち着きすぎてないかい?」
昔から
「私の予感って外れた事ないの。」
でも
「だからって悲しくないわけじゃないのよ。」
ああ
「わかるよ。」
そう言ったのも、女が話している最中にも、赤ん坊をみながら泣き続けていたからだ。
あ
「起きちゃったわ。」
女はいそいそと立ち上がった。
私、
「ちょっと、搾乳してくるわ。この子、起きたらすぐミルクの子だから。」
あなた、見ててね。
あ、ああ。
男が答えた時には、すでに声が聞こえないくらい、遠くになっていた。