地面が揺れて、
 アイサは飛び起きた。
 そして、見た。
 地に落ちたロザリオを
 そこに撒き散る血を
 そして思い起こす。
 その場は誰の場であったかを。
 その吊り下げられたロザリオの下にはいつも誰がいたかを。
「……………サラサエル?」
 返事は、無い。
「いや……そんな…………」
 震える足で立ち上がり、一歩二歩と進んでいく。
 寒さなどではない。
 足の――身体の震えも
 カチカチと音を立てる歯も
 この汗も
 背筋が凍るようなのも
 冬の寒さのせいなどではない。
「サラ……サ、エル…………?」
 呼吸すら、聞こえない。
「サラサエル?……ねぇ、返事をしてよ。サラサエル―――」
 アイサがいくら呼び掛けようと
「サラサエル――サラサエルってば」
 静寂が、広がるだけ。
「そんな……ねぇそんな…………違うよね!?――サラサエルが……サラサエルが死……………死んじゃうなんて―――」
 誰も、答える者などいない。
「そんな…やだ……やだよう」
 涙が、嗚咽が止まらない。
「サラサエル……サラサエル。ねぇ私、貴方の名前、聞いてないよ」
  足がくだけて座り込む。
「貴方のこと……知らないよ。名前すら、判らないよ………」
  か細い、呟きを。
「ここでの暮らし方も、世界の事も、教えてくれたじゃない…」
  泣きながら。必死で紡ぎながら。
「ずっと一緒だって、傍にいるって、言ったのに―――」
―――独りにしないでよぉ