コン、コン。
ゆっくりと慎重にドアをノックする。
もし、先刻おばさんが言っていた様にガンドールに母親がいるのなら、騒がれる前に母親を消しておかなきゃならない。
……どうやら返答はない。
私は静かにドアノブに手をかけると、ノブを捻った。
開いている。
私は一歩を踏み出す。
それと共に激しい憎悪が私の胸の内から込み上げてくるのが分かった。
殺してやる……殺してやるんだ。
一歩、一歩を踏み締めるように室内を歩いてゆく。
薄暗い室内は、長く清掃がなされていないのか埃にまみれたテーブルや積み上げられたゴミ袋など、お世辞にも綺麗とは言い難く見えた。
和室、リビング、浴室、トイレ……と一通り回って見たものの、ガンドールの姿は見当たらない。
もしかすると、いないのだろうか?
はぁ、と小さく溜息を打つ。
数瞬、天井から脈打つ何かドでかい物音が私の鼓膜を震わした。
二階、そういえば見てなかった。
慌てて身を翻すと、二階へと続く階段を駆け上がる。
魔王様の喜ぶ顔が見たかった。
ガンドールを殺せば、魔王様は私を褒めて下さる。
喜んで下さる。
よくやってくれたな……そう言ってほしいんだ。
……何をいってるんだ、私は……。
階段の途中で足を止める。
魔王様に褒められたいから、喜んでほしいからガンドールを殺す?
違う。
悪魔に、そんな生ぬるい感情がある訳ない。
そんな感情があるのは弱い人間や偽善者の天界の奴らだけだ。
私は……違う。
私は……悪魔だもん。
私は、尊敬する魔王様の命令だからやるんだ。
私が憎いからやるんだ。
殺したいから……殺すんだ。
そだよね?
俯いていた顔を、ゆっくりとあげると一度だけ小さく頷く。
もう私に迷いはない。
ガンドールを殺す。
だって……私は。
――悪魔だかんね――