ボヘミアン3

長い夜  2008-05-19投稿
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「と、言うと結婚の意志があると言うことなのか?」
と、父さんは尋ねた。

「今はこんなんだから、アキには悪くて。」

彰くんが申し訳なさそうにそうつぶやいた。

そして、父さんが話しだした。

「実は亜紀子に縁談の話が来てるんだ。相手は県立高校の教師で公務員だ。亜紀子には実にいい話しでな・・・。彰君、この子が好きなら、歌をやめてまともな仕事をしてくれないか?」

父さんそう言うと彰くんに頭を下げた。

「父さん・・・。」

私が声を掛けると父さん泣いていた。
母さんも泣いていた。
私も下を向いたままそれ以上言葉が出なかった。
彰君も唇を噛んで、背中で泣いていた。

どうしたらいいんだろう。父さんと母さんを困らせて、でも、私彰くんについて行こうと決めていた。たとえ何があっても・・・。

次の日、

いつものライブハウスには彰君姿があった。
真っ白いシャツにジーンズ姿の彰くん。
袖には彰君の亡くなったお父さんから買ってもらったギターが置いてある。
彰くんが歌いはじめると、今まで騒ついていた客席はシ〜ンと静まり返る。これがいつもの彰くんのライブのスタートだ。やがて彰くんの歌声が狭いホールに響き渡る。
お父さんとの事を歌った曲を終えた後、トークになる。これがまたお客さんを湧かすのだった。
そしてまた、ギターをポロ〜ンとやって2曲目が始まる。この曲は愛し合うものが最後は別れるという悲しい曲。
みんな泣いているように思えた。私も涙がこぼれた。
昨日のことで泣いてるんじゃない。ただ、彰くんが可愛そうで・・・、

「こんな店で歌っていても金にはならないし・・・。でもな、俺年老いて、死ぬまで歌はやめないから・・・」

そんなことを言う彰くんは悲しいくらい夢を追っ掛けてる人でした。

シンプルな空に、星を描いても、きまぐれはただ消えていくのに・・・。
それでも夢を見る彰君。とても凍えそうな悲しい人生でした。

あれから6年・・・、

彰くんがこの町を放れてもうそんなに経ったんですね。父さんと母さんは父さんの定年を機に九州に帰り、今はのんびりと生活をしています。
そして私は・・・。

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