一種の戦勝中毒にかかっていた前線指揮官・例え荒っぽかろうと宇宙文明に外科手術の大鉈を振るってしまえと沸騰する宙際世論・それを煽る各勢力内ネット・時流に乗り遅れまいとする新興企業群・一早い平和の訪れよりも栄達のチャンスを求める若手政治家や投機業者・そして、歴史を動かし自己顕示欲とユートピアを同時に満たそうする衝動のまま論陣を振り回す文化人―銀河中のあらゆる利害と思惑と欲望とが複雑に絡み合っては交錯し、やがてそれ等は一つの巨大な奔流を産み出した。
ギャームリーグ中央は愚か、機動部隊ですら最早コントロール出来ない位に―。
銀河元号一五二六年・第一期四四日(修正太陽暦二月一九日)、ギャームリーグ機動部隊各司令官は古風にも血判状を回覧し、厳かに宣言した―既にこの大戦は戦局の域を越えている。
全銀河・全人類の今後一万年を決めるべき歴史的局面に差し掛かっている以上卑小な善悪や規範に囚われず我々は我々に託された偉大なる使命を果たすべく艦列を進める事をここに決定する!
当時中央域に展開していたギャームリーグ軍合計二0個機動部隊の内、実に一八までもがこの激に応じた。
その戦力は純戦闘艦艇三一六000隻・将兵四0三五九00名から成っていた。
対するフリースユニオン側は満足に動ける船は全てかき集めて八七0万隻(内正規の軍艦は推定九二万隻)の大軍を用意していた。
当時彼等が中央域で運用出来るこれはぎりぎり一杯の軍容であった。
逆から言えば、この艦隊が壊滅すれば、フリースユニオンは中央域を完全に手放さなければならなくなるのだ。
同年第二期六一日(修正太陽暦三月六日)第五・第六機動部隊を先鋒に、ギャームリーグ軍は摂収した要塞イエナから出陣した。
情報によれば、フリースユニオンが全艦隊を終結させたのは、そこから一二光年離れたプロヴィンキア恒星系外縁だった。
だが、フリースユニオン側は今回、一つの秘策を持っていた。
改装軍艦を中心に遊撃用の部隊凡そ三0万隻を用意して、適軍の進路を妨害・撹乱しながら、主力艦隊は温存し、意図的に決戦場を後ろへ後ろへとずらして行ったのだ。
本来なら二週間は有れば会敵出来ると踏んでいたギャームリーグ機動部隊は、予定の三倍以上の距離を進まされ、遊撃部隊の執拗なゲリラ戦に思いもかけない消耗や損害を強いられ始めた。