ここに一本の鉛筆がある。パイプ脚の机の上だ。
あんたがもし、この鉛筆を使って(自分の過去)というノートに一つだけ書き足せるとしたらどうする?
それがもしも叶うとしたら??
あ、言っとくけど現実的なものじゃないとダメ。ダメな例は(金持ちになる)とか
え?俺?
俺は…
俺なら、別に後悔してるわけじゃないんだけど……
学校のチャイムが鳴った。5時間目の授業が終わる。
ガヤガヤとうごめくクラスメート。
この2年2組は男子生徒10人、女子生徒が30人という変則クラスだ。授業の最中でも休み時間のようにギャーギャー話すコギャル(女子高生)がいて軽い学級崩壊を起こしている。
コギャル…死語じゃない。ここは今から10年前、携帯もあまり普及していない時代でコギャルにルーズソックスがもれなく1組っていうくらいの時代なんだから。
帰りのホームルームの時間になった。テーマは修学旅行についてだ。
俺は机を重ね、男友達と一緒にどこに行くかを決めていた。
友達の中本拓也は「なぁ、ソウキュウは自由行動どこに行きたい?」
ここ北海道の修学旅行はほとんどが京都と奈良、そして東京へ行く行程だ。
『そうだなぁ〜』とあまり興味なく鉛筆をクルクルと回しながら考えていた。
太陽が西の空と手前にある住宅とを集中的に照らし始め、俺の目も眩ませようとしている。
『あっ』
スロー映像を見てるかのように右手で遊んでいた鉛筆が落ちようとしている。空中で拾える事は無理だとわかっているから手は出さなかった。
カチャ!という軽い音と共にスロー映像も元に戻る。
鉛筆は転がり、女子のグループ側に行ってしまった。このクラスは男女の交友関係はあまりない。だから取りにいけない気まずさが俺の机と女子グループの間にあった。
女子グループ=他人。
でも自分のだからと重い腰を上げて鉛筆を取りに行こうとした。腰を下ろして拾おうとすると俺の視界から鉛筆と俺の手、そしてもう一本の腕が見えたんだ。いやいや、俺のじゃないよ。鉛筆はその腕に拾われた。それと同時に声が聞こえた。
「はい、これ」