第一次恒星間大戦初期に置いて、ギャームリーグ機動部隊が人類史上最強の軍事力を誇っていたのは紛れもない事実ではあった。
だが、研ぎ澄まされた精密機械である分却って、少なからぬ弱点を抱えていたのも否定出来ない。
取り分け短期決戦に特化したその体系は、一端その利点が失われる状況に晒されると、すぐさま隠れていた構造的脆さが露呈する危険を常に内含していたのだ。
この時代、特に外征を目的とした機動部隊には、必ず産業船団が同行するのが常識だった。
食糧・水・エネルギー・弾薬から小型の艦艇類まで、産業船団は外征部隊が必要とするあらゆる補給物資を生産し、修理・整備・医療・休養等を担当する後方船団と併せて、理論的には戦闘艦に半永久的な行動を保証する能力がある。
だが、当然ながら、戦闘能力は無きに等しく、鈍重な上に余計な質量を多く抱える産業船団は、しばしば機動部隊の速力を奪い、敵の格好の餌食にされる事も珍しく無かった。
特に時空集約航法時、余分な質量は正しく《贅肉》以外の何者でも無かった。
当時銀河最先端の組織と装備を持っていた筈のギャームリーグ軍は、何とこの産業船団を最初から一隻も持って行かなかったのだ!
彼等の図った軽量化はここまで徹底していたのだ。
勿論これはリスキーな選択だ。
スピードと攻撃力は稼げるが、防御・耐久性はからきし弱くなる。
だが彼等には勝算があった―主戦場となるのは銀河中央域だ。
発展した恒星系を多く抱え、航路が集中し、人口及び人工物密度は銀河随一・しかも、雑用をこなしてくれる企業は幾等でもいる。
そうだ―ギャームリーグ側は気付いていた。
カネさえ払えば中央域では何でも調達出来ると。
仮に産業船団が必要になっても、それを提供出来るだけの船団勢力の類ならそれこそうようよ居た訳だ。
ギャームリーグ軍の補給戦略は、だから大胆にも現地調達方式だったのだ。
だがこれは理にかなっていた。
宇宙時代のほぼ全てを通じて確立していた軍事的常識の一つは、戦艦や巡洋艦・宙母等の純戦闘艦艇を世話するのにその五〜一0倍に及ぶ船や人員が必要だ、と言う事実だった。
特に固定した拠点に頼れない外征軍にはこの傾向が顕著になる。
いつもフリースユニオン軍が戦う度に馬鹿らしくなる程の船を集めていたのも、これがあったからだった。