「どうにもならないわ。成田基地に援軍を要請しましょう」
覆しがたい圧倒的物量差に加え、この濃霧。既に戦いの趨勢は決していた。
時代遅れのソナーでは魚雷を撃ち込める程の正確な位置を把握できない。
成田基地からの援軍を頼む他なかった。
爆撃機の存在だけで大局は変わる。
「成田基地に入電!」
「やってますが、繋がりません!」
オペレーターの一人が悲鳴を上げる。
「通信妨害や故障の類ではなく、通信システム自体が変更されています」
「どういう事?」
滝川は顔をしかめた。通信システム自体の変更は稀だが、必ず全部隊にその旨は伝えられる。
滝川の心の中に、数日前に感じた疑念が頭をもたげてきた。
裏切り。
あくまで推測と憶測。
成田が自分達を“天使”を検証する為の餌にしたのではないか。
それを指示したのは土田准将ではないか。
艦ごとその証拠を魔の海に沈めようというのか。
「艦長。こうなったら米国を頼る他ありません」
荒木が額の汗を拭いながら言った。
「艦の奪取を狙う敵はまだ手緩い。合衆国海軍の力を以てすれば或いは…」
手はそれしかなさそうだった。
滝川は決断した。