「犯人は私、七星 ルナが捕まえる!今は亡きおばあちゃんの名にかけてっ!」
おいっ、ばーさんかよっ!
っていうか、お前のばーさんはまだピンピンしてるだろが。
全ては、この一言から始まった。
遡る事2時間前。
僕の部屋にて。
フローリングの床に直接置かれたノートパソコンが、小さな機械音をあげている。
そして、その画面を一心に見つめながらソーダ味のアイスバーにかじりついている女が一人。
僕はベッドの上で寝そべりながら読んでいた漫画本から視線をずらすと、その女の様子をじっと伺う。
細身で華奢な身体に、丸い顔におさまった目、鼻、口……そのどのパーツをとってみても幼い。
幼すぎる、そして幼児すぎる。
更に、丸顔がいっそうとそれを深める、まろやかにする。
究極合体している……童顔に。
そう、この女こそ僕の幼なじみにして究極の童顔を持つ女、七星 ルナ。
ソーダバーを口にくわえながらカタカタとキーボードを打つルナを横目で視認したのち、僕は漫画本に目を戻した。
ルナが静かにしている時は、無駄に干渉しないに限る。
こいつが無言の時間なんて稀にしかない。一度、口を開けば奇想天外な言葉と奇々怪々な提案しか語らないのは目に見えている。
故に僕は、何をしているなどと言う野暮な質問はしたりしない。
例え、そのような疑問が頭に浮かんだとしても口には出してはならない。
それがルナと会話する上でのコツだ。
触らぬ神に祟りなし。
これに習え。
触らぬルナに祟りなし。
良しっ!
自己思案の完了と共に漫画本に目を通し始める僕。
「大変だ……事件だ」
僕ではない誰かの声。
しかし、それは誰に語りかけるでもない個人の言葉。
いわゆる独り言だ。
だから僕は何の反応も示さずともよいのだろう。
「ワトソン、ちょっと来て」
ルナが僕に手招きをしながらパソコンの液晶画面を指差す。
続いては、不名誉にもつけられた僕の固有名詞であるワトソンをつけ加えながらの指名だから、独り言ではなく対人同士で成り立つ会話ということになる。
しかし会話の場合、両者の友好なる関係や対人者の気分により相手との会話を無理矢理に拒否できる権限がある。
俗にいう無視。
この場合、ルナのテンションから察するに、またろくでもないアクションに付き合わされるのは目に見えている。
よって僕がとる行動は無視。