孝也の自宅は駅から徒歩10分のところにある20階建てのマンションで、その7階に住んでいる。
いつもの様に帰り道にあるコンビニで晩飯とビール、缶コーヒーを買い、自宅マンションに到着すると、いつもなら気にせずさっさとエントランスを抜け、5秒後にはエレベーターの上昇ボタンを押しているのだが、今日はふと空が気になりマンションの入口前の小さな階段に座り込んだ。
孝也は綺麗な星空を見上げ、先程買った缶コーヒーを開け、タバコをふかしていた。
こうやってゆっくり星空を見るのは何年振りだろう。
日々忙しい仕事に追われ、自分の時間をなかなか作れないでいた孝也には久しぶりの休息の時間であった。
しばしの休息の後タバコの火を消そうと足元にある缶コーヒーを一気に飲みほし、タバコを入れた瞬間、孝也の前に何か大きな物が凄まじい音をたてて地面に落下した。
孝也は安楽の時をつんざくその凄まじい音に怒りを覚えつつもその正体を捕らえようと目をやった。
初めは限りなく人間に近い高精度なマネキンが落ちて来たのだと思った。
しかし孝也のそのお気楽な考えはすぐに打ち砕かれた。
孝也がその物体に近づいてみるとそいつは口から血をはいたのだ。
明らかに人間であった。
だが違和感がある。手や足はあらぬ方向を向いて、いかにも間節をもたない人形のようだが、それ以上に違和感が…。
孝也がふとそいつの顔を見た時、その違和感に気が付いた。
「笑ってる……」