橋本と裕也は、死体を運ぶことにした。
「じゃあ、運びますか。」
誰もいない校舎から出て、人気のない道をしばらく歩くと、汚いアパートがあった。その部屋には、「橋本」と、いう札があった。
「まさか橋本、一人ですんでるのか?」
裕也は斉藤愛菜の死体をおろしながら言った。
「・・・両親は、行方不明なんです。」
それにしては、あまり悲しそうではなかった。
「入っていいか?」
ドアを開けると、きれいに整頓された部屋があった。
「どこに死体を?」
橋本は渡邉七海の死体を玄関におき、
「庭に埋めます。」
と、言った。
「埋めるって・・・」
無表情な橋本はアパートの裏庭に出て、穴を掘り始めた。
「警察犬とかに匂いで見つかるかもしれねーぞ?」
確かに。万一の場合を考えれば、そうかもしれない。
「ここらは風が強いし、排気ガスの排出も多いから見つかる可能性は低いはずですけど・・・」
橋本は黙々と穴を掘ってゆく。
「なんで風の強さが関係するんだ?」
裕也は、いきなり訳の分からないことを言い出す橋本を不思議に思った。
「風が強いと匂いが他の匂いと混じるんです。だからたまに警察犬でも探知出来ない時があるんです。」
なるほど。それにしても、なんでそんなに詳しいんだ?
「橋本、何でそんなことまで?」
橋本は黙って顔を上げた。
「私、人を殺した事があるんです。」
夏の夕方、人気のないアパートで、かすかに何かが狂い始めていた。