次の朝、母親はいつもより不機嫌でいつもより情緒不安だった。
起きたばかりの私を見るなり、無理矢理家から引っ張り出して、産婦人科へと車を走らせた。
車内で母親は一言も口を開かなかった。
病院の待合室で、母親と並んで座る。何年ぶりだろうか。
母親とこうして、二人だけの時を過ごすのは…。
「お母さん……ごめん。」
私の言葉に、母親の返事は無かった。母親はただ待合室の窓から見える景色を見ている。
名前を呼ばれて、診察を受けて、私はこれから中絶手術を受ける事になった。
麻酔の点滴を打たれると、目の前が回って気が遠のいていく。
このまま目が覚めなきゃいいのに…。
気が付くと、ベットの上に寝ていて、母親が横の椅子に腰かけて雑誌を読んでいた。
「お母さん…」
私の声に、母親は顔を上げてため息を付いた。
「ねぇ、もう済んだ事をとやかく言うつもりはないわ。でもこれだけは約束して。私の人生を壊す様な事は二度としないで!!」
久しぶりに口を開いた母親から放された言葉は、私の心をズタズタに引き裂いた。
いつもそうだ。
自分の事ばかり…。
それから、私は診察を受けて家へ帰された。
家へ帰ると、母親の恋人が居て私に「大丈夫か?」何て声をかけてきたけど、私は何も言わずに自分の部屋へ入った。
母親のため息が、また聞こえた気がした。