緑の丘 (11)

レオン  2008-05-24投稿
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次の朝、母親はいつもより不機嫌でいつもより情緒不安だった。

起きたばかりの私を見るなり、無理矢理家から引っ張り出して、産婦人科へと車を走らせた。

車内で母親は一言も口を開かなかった。

病院の待合室で、母親と並んで座る。何年ぶりだろうか。
母親とこうして、二人だけの時を過ごすのは…。

「お母さん……ごめん。」

私の言葉に、母親の返事は無かった。母親はただ待合室の窓から見える景色を見ている。

名前を呼ばれて、診察を受けて、私はこれから中絶手術を受ける事になった。

麻酔の点滴を打たれると、目の前が回って気が遠のいていく。


このまま目が覚めなきゃいいのに…。


気が付くと、ベットの上に寝ていて、母親が横の椅子に腰かけて雑誌を読んでいた。

「お母さん…」

私の声に、母親は顔を上げてため息を付いた。

「ねぇ、もう済んだ事をとやかく言うつもりはないわ。でもこれだけは約束して。私の人生を壊す様な事は二度としないで!!」

久しぶりに口を開いた母親から放された言葉は、私の心をズタズタに引き裂いた。


いつもそうだ。
自分の事ばかり…。


それから、私は診察を受けて家へ帰された。

家へ帰ると、母親の恋人が居て私に「大丈夫か?」何て声をかけてきたけど、私は何も言わずに自分の部屋へ入った。
母親のため息が、また聞こえた気がした。


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