やさしくてかなしい犯罪を見たことがあるだろうか?
うまれてこの方二十と数年わたしはやっと、理不尽でやさしくて、かなしくて、切ない犯罪に出会いました介護を受けている母と、母を介護するために会社を辞めて、すべてをなくした息子。国の保険にも制度にもはじき出され、明日食べるものや明かり、水、生活ライフラインをすべて断たれた親子が関西にいました。それでもなんとか生きようとがんばりましたが、国は彼には冷淡でした。
なんの補助もなしで、金も尽きました。もう残された道は、心中しかありませんでした。
彼は死ぬ、と決めた日、母を外に連れ出しました。
母が見たいという観光地にいっしょにいきました。
母は喜びました。その途中彼はコンビニで全財産をはたいて最後の晩餐の菓子パンを母に買い与えました。母は自分の分の菓子パンを息子にも与えました。
ひとつしかない菓子パン。だけどふたりは満ち足りていました。彼はある川原にきて、母に切り出しました「かあさん、もうあかんねん」そういうと、母は俯いた「そうか。」とひとこと言った。「死ぬしかないんやな」