フミが恋に落ちた青年の名は「康」といい、彼には妻子があった。
フミが何故、フリーではない男性をえらんだのか…それは父親の存在を否定している彼女にとって、やはり同じ男性である恋人にも否定的な態度が現れてしまい、現実に手に入れられる男性よりもむしろ、永遠に自分のものにはならない男性を、無意識に選んだのかもしれなかった。
それでも康の胸に抱かれている時のフミは、幸せだった。生まれて初めて母親以外の人間で、安心感が得られる相手だった。
「もしかすると康が、ずっと私のそばにいてくれたら、母親依存症の私でも、母親を離れて生きていけるかもしれない…」
しかし妻子のある康と、ずっと一緒にいられる望みなど、最初から持てるはずのものではなかった。
そしてフミは、康の妻子に対して逃れようのない罪悪感に苦しみはじめていた。
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