「………」
"唖然と"では、表現が足りない程に、自分が茫然自失状態なのがわかる。
そう。
知っていた。正しくは、調べ廻ったというべきか。
村を出た理由も、それだった。
知られた、という事実と、差別に対する不安に、今にも精神が押し潰されそうになる。
冷静に考えれば、ばらばらにされた妖需らの方が、危険なはずなのに。
痛いほどにわかっているのに。
違う。
分かっているから、本能が邪魔をする。
むざむざ危険な道に入って、痛い目に遭うのなんて馬鹿臭いじゃないか。
やめてしまえ。
逃げてしまえ。
表向きは、明るく笑っていても、きっと、お互い赤の他人だと自覚していたんだから。
「――出るかい?どうせ、警備も薄いし、ディルなら突破できんじゃん?」
一瞬、揺れた。
だけれど、決めたんだ。
もう逃げない、と。
‡
「おい!お前!!何をしている!?」
肩を叩かれるままに、妖需は上体を下げ、鳩尾に肘を入れる。
そのまま後ろに回り、頸動脈へ手刀。
人が倒れる音に反応して、新手が来た。
物影に身を滑り込ませ、時期を窺う。
足音が近づいてくる。
かつん、
かつん
後、一歩――。
――かつん
壁を蹴り、自分の最大の起動力で走った。
例の布袋を握った手を、体の動きのままに屠る。
びりびり、と腕に衝撃が走る。
その手応えを目印に、瞬時に次の行動を選択した。
体制を崩した兵士(?)に、今度は、ブラック・ジャックを縦になぐ。
そのまま、両手を地面に付け顔を近付け固定、足を少しの時間差を付けて振り、背後に立っていたもう一人にも、きついのをお見舞いした。
一人ひとりが大した事がないとはいえ、こうも連続だと、体力にも限界がある。
激しい運動に、体中が悲鳴を上げ始めた瞬間。
「ぁぐ……!」
首に、太い腕が絡んできた。不意をつかれたまま、成す術もなく、視界が白んだ。