「ね〜、孝也ぁ、本当に行くのぉ??」
孝也には恵美の言葉は届いてなかった。
あの奇妙な死体が最期に何を見たのか、それを知りたいという思いだけが孝也の体を動かしていた。
エレベーターの中はやけに静かだった。機会音すら今は耳に入らない。
目を閉じれば、まるで真っ暗な闇の中を一人でさ迷っているのではないかと錯覚してしまう程であった。
「ね〜、孝也ぁ、これが終わったら、あそこに行こうよぉ!」
恵美があそこというのは孝也の家の近所に最近できた大型のスーパーの事である。
孝也も今日、恵美とそこに行くつもりであったが、今の孝也にはそれを口で伝える余裕はなかった。
気付けばエレベーターは19階まで来ていた。
孝也は興奮と恐怖が入り交じったような感覚であった。
怖いもの見たさ。
そういうありきたりな感情ではなく、何か使命感に近いものがあった。
エレベーターは屋上へ到着したという合図と供に扉をゆっくりと開いた。
孝也はどくどくと興奮に脈打つ鼓動を感じながらエレベーターを出て屋上へと続く扉に手をかけた。