安楽の黒〜7(LAST)−2〜

 2008-05-30投稿
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そして、その時は来た。

 
気付けば男の周りには医師や看護師が取り囲み慌ただしく動いていた。
どうやら病状が急変したらしい。
意識は薄い。
 

そんな中、何も言わずただ男を見ている女がいた。
男は朦朧とする意識の中その女と長い間視線を合わしていた。
実際はほんの数秒、いや1秒もなかったのかもしれない。
だが少なくとも男にはとても長く感じた。

するとその女はふと口を開いた。

「あなた…。私と一緒で幸せだった…?」

女は今にも泣き崩れそうだった。
恐らく今まで何も喋らなかったのは男に涙を見せたくなかったからであろう。

男は不意を突くその一言に少し戸惑ったが腹に力を入れ声を搾り出した。

「…ぁ当たり前、じゃないか。…ぉお前を疎ましく思った事なんか、い、一度も、、ないぞ。」



 
 
「………嘘つき」
 
 
 


女は急に微笑み、男に向かい一言そういった。
更に女は続けた。

「あなたって、ホントに嘘が下手ね。…私にはすぐ分かるわ。」

女の声は震えていた。

「だってあなた、、嘘をつく時必ず瞬きがいつもより多くなるんだもの…。」



「………そう、か…」

男は笑った。
女も涙を流しながら笑っていた。

そして女はおもむろに顔を男に近付け口づけした。

男は薄れ行く意識の中、唇にその女の温もりを感じていた。
そして何か冷たい物が雫の様に頬に落ちたのを感じた瞬間、男の意識は完全になくなり目の前が真っ暗となった。


 
 
 
 
 
 
 
 

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