今年の夏は、酷く暑い。雲一つ無い空にぽっかりとうかぶ太陽は直射日光を激しく降らせて俺達を責め立てるし、その下に曝され続けているアスファルトは遠目にも分かる程ゆらゆらと陽炎を立ち上らせている。更にそのうえ、風は凪いで涼も取れないと来たもんだ。立っていようが座っていようが寝転がっていようが、汗がナイアガラ級に流れ落ちるこの夏を、端的に、且つ簡潔に言うなれば。今年の夏もウザい程記録的な猛暑。それだけだ。……頼むから、それだけで済んでくれ。教室の片隅で切に願う。
「暑い、っつかもう熱いだなこりゃ。あ、言ってる意味分かるか? 日の者の方じゃなくって、熱の方の熱いな」
「分かるよ。分かりたくないけど……分かる。確かに、これはもう熱いだね」
傍らに居た友人……名前を中島雄平という……に、話し掛けると、弱々しいながらも同意の声が帰って来た。やはり雄平もこの暑さに参っているのだろう。重力に逆らう気力も根こそぎ奪い去られ、机に突っ伏して涎などではない液体で机の上に海を作っている。そこに映る糞忌ま忌ましい太陽がこちらに照り返した日光を浴びせ掛けてくるのが最上級に欝陶しい。 窓枠に凭れながら逃れるようにして大きく体をのけ反らせ、開いた口で無意味に「うあー」などと声を出してみる。暑い。
窓の外に迫り出した体で精一杯風を浴びようとするが、風は無い。結果として得たものは、余り鍛えられてない腹筋が引き攣る痛みだけ。
「なんで一年の教室には冷房は無いんかねー。アレだろ? 三年の教室には有るんだろ? くっそ贔屓だ、教育委員会に訴えてやる」
「しょうがないよ、三年は受験があるんだから……」
「甘ぇ。甘ぇよ雄平。そんなんだから教室は暑いままなんだ。いいか、一人一人の力は弱くてもだなぁ」
「月島くん、今は授業中だよ。席に戻りなよ」
今度の返事は暑さに負けていない、しかも平気で人の台詞をぶった切る、尚且つ雄平のボーイソプラノの声では無い、知らない女の声だった。のけ反った姿勢のまま顔だけを動かし、声の正体を探る。
「なんだお前。つか誰だっけ。同じクラスの奴か?」
「もう、ひどいよ月島くん。私だよ、桐原円華だよ。ほら、中学の頃から一緒の」
「済まん。忘れた」
「酷いぃ……」
はぁ、と溜息を吐く音が聞こえた。見れば、雄平が顔を上げ、怠そうに……いや、呆れてんのか。口を、開いた。