祐輔は無信仰者だ。輪廻も霊の存在も信じていなかった。ただ、それで春樹が安心するのならと考えていた。
しばらくすると、春樹が両手にスコップとツルハシを持って戻って来た。
「待たせたね…それで何処に埋めようか」
「そうですね、外はまずいし…穴の側はどうです?」
「そうだね、そこなら陽も当るし…」
「それに、ロシアの方角です…」
二人は穴の付近の、できるだけ柔らかい所を探して掘り始めた。
大きな石が結構埋まっていて掘りにくかったので、あまり深くは掘れなかったが、それでも人骨を埋めるには充分だった。
春樹はスコップとツルハシの他にシーツも持ってきていた。二人は骨をそのシーツに包んで、掘った穴にそっと入れて上から土を被せた。
「これで安らかに眠ってくれるでしょう」
「ちゃんとしたお墓も作ろう…これからは祠じゃなく、ここまで入ってこないとな…」
春樹は手を合わせた。その顔には少し安堵の笑みが浮かんでいた。
「祠は入口を隠すために残しておきましょう…」
「そうだね…もう少し軽いのに建て替えるよ、今のは一人では動かせないからね」
「二人なら動かせますよ」
「え?!…」
祐輔は感慨深げに春樹を見つめた。
「ポリトフスキーのお墓…二人で守っていきませんか」
「祐輔くん…いいのかね?」
「はい…」
祐輔はニコリと笑った。
「今日は一旦帰ります…その前に、朝食にしません?」
「そうだね、また何か作るよ」
「今度は俺も手伝います」
「私は祠の辺りを片付けてから行くから、先にスコップを納屋に始末っといてくれなかいかね」
二人は祠を元の所に戻すと、春樹は散らばった石を拾い始めた。
祐輔は春樹からスコップとツルハシを受け取ると外へと向った。
洞窟を出ると、辺りは既に白々と明け始めていた。祐輔は歩きながら、無意識に歌を口吟んでいた。
それは一週間の歌だった。それに気付いた祐輔は、すぐにケータイを取り出した。
「春樹さん!…思い出しました、一週間の歌思い出したんです、歌いますよ」
歌い終えると、朝靄の中に、この世の者とは思えない、妖艶で美しい外国人の青年が、祐輔の方をじっと見つめて立っていた。