「ほらよ、頼まれてたもんだぜ」
そう言葉を添えて投げられたものを、俺は空中でキャッチする。シンプルな、折り畳み式の白の携帯。サブディスプレイには今日の日付と、現在の時刻が正確に表示されている。12月10日、午後02時28分。ちょうど前の仕事から四日たっていた。手にした携帯を一通りいじくり回して手に馴染ませると、俺はポケットにそれを突っ込むと醐鴉に感謝の意を告げた。
「しかし、ご挨拶だな。店に入った瞬間にこれは流石にないだろう?」
「うるせえよ。渡す度に携帯ブッ壊す奴にはこれくらいで十分だ」
物言いこそ乱暴だが妙な事に、醐鴉は嫌な感じのにやけ顔をしていた。何か含みの有るような、その顔を見ると同時に嫌な予感が背筋を駆け登るが、あえて捩伏せてテーブルにつく。するとソファスペースに座っていたマスターが腰を上げ、注文を取りにやって来る。いつもの流れだ。携帯を受け取ることも含め飽きるほど繰り返されて来た、変わりない日常の一風景。それに僅かに安堵しながらマスターにオーダーを告げ、マスターは笑顔で応じて、そして。
「君は? 何か頼む?」
俺の後に続いて椅子に座った少女に、そう尋ねた。そこまでがいつもと……いや、“今まで”と違う部分だった。
「私は別に何も要らないけど。お金も無いし。……でもそうだね、百目が奢ってくれるんなら何か頼もうかな」
「だって。どうする、めーくん」
「……好きにしろよ」
溜息8割言葉2割。俺が吐き出したおおよそ溜息を好意的にかつ無遠慮に解釈した少女は、「じゃあ」と言ってメニューの中でも割と高めのケーキセットを注文した。笑顔で快諾しキッチンへ向かうマスターの背中を見送り、また溜息を一つ。。いいさ。金は余ってる。飢えた子供の胃袋を埋めるくらいどうということはない。
「ねぇ、百目はケーキ食べないの? ひょっとして甘い物嫌いな人?」
「別に嫌いじゃないが、それで腹が膨れるほど少食じゃないんだよ」
「ふーん……」
気のない返事をした後、何を思ったのか少女は黙りこくってしまった。それを不思議に思う、暇も無く。まるで順番を待っていたかのように、醐鴉が肩に手を置きそのまま流れるようにヘッドロック。俺の首を絞めて来た。
か