すると、ジッと席に座っていた良子が立ち上がった。
「待ちなさいよアンタたち!
話しはまだ、終わってないんだからね!」
「荻島さん!」
亜久男さんたちを追いかけようとする良子を女性は急いで引き止めた。酔いも手伝ってか、良子は興奮状態。
まだ怒りが治まらないのだ。
「離してよ!」
「もう、喧嘩は終わりなのよ!」
何が何でも外へ出ようとする良子を、女性はシッカリと体を掴んでいる。興奮したままの良子を落ち着かせるだけでも一苦労である。でも女性は少しも慌てる事はなかった。
美枝良さんの時と同じように良子の顔に向けて手をかざす仕草をした。やはり、良子も段々と大人しくなって来た。ぼーっと立ち尽くす良子を、女性は席に座らせた。
女性は双葉聖プリウス女子大学に通う美月真愛さん。この人も、フレンドリーの会員の一人である。
良子の気持ちが落ち着いたところで、真愛さんとの語り合いが始まる。真愛さん、今日は私と言い争っていた時からずっと…良子を見ていたらしい。
真愛さんが良子と会話するのは今日が初めてのようだけど、良子には不思議と…懐かしさを感じていた。
「真愛さんとは昔…、どこかで会ったような気がするんだけど」
「私と?」
「そう。でもどこで会ったのか…思い出せないのよね。私って、過去の事はすぐに忘れてしまうから」
「それはどうして?」「私は常に、その日の事や先の事しか考えないようにしてるの」
「過去の事は、振り返らない…って事ネェ」「まあ、そんな感じ。だから、真愛さんとは…どこで会ったのかも覚えていないし。
ごめんなさいね」
「無理に、思い出さなくてもイイんじゃないの?」
「でも折角、こうして語り合ってるし。
何だか、申し訳ないような気がするの」
「そのうちに、何かのキッカケでフッ思い出す時があるわよ」
真愛さん、終止笑顔。良子にしてみれば、心が休まるような温かい雰囲気を感じていた。
つづく