―――某日 午後3時25分。沙絵の意識が戻る。
『………………』
「沙絵……」
原因は相手の飲酒運転による交通事故。
『……めん』
「ん?」
『ごめんね』
沙絵は何度も謝った。かすれた声を振り絞って。
『赤ちゃん……産んであげられなくて、ごめんね』
そう、沙絵の腹の中には子供がいた。
3ヶ月――それが、この子供の生きた時間。
1度も抱かずに去ってしまった。
俺達の子供。
『あ……の、ね』
沙絵は泣きながら言った。
『もう……子供は、産めない、て医者様が』
「そんなの……沙絵が生きてる事に比べたら!」
だが、実際俺は悲しい気持ちになっていた。
『公平』
「?なんだ?」
『ごめんね』
「もういいさ。俺はお前が」
『さよなら、なの』
「―――え?」
どういう意味だ?
さよなら、なんて
『ありがとう』
「…………沙、絵?」
しかし返事は、ない。
「―――――――っ」
『沙絵――――っ!』
午後4時52分。
五十嵐 沙絵 永眠
死因は、交通事故による脳内出血。
あれから俺は、また女遊びを始めた。
しかし、いつだってそうだった。
寂しさだけは、埋まらなかった。
……………寂しくて。
寂しくて寂しくて。
今わかった。
沙絵は、俺だけのシンデレラ。
心を満たしてくれる、愛しい人。
―――――愛する人よ