孝志は、急ぎ足である場所へ向かっていた。
そう、沙野子といつも会うバーへ。
あの時
『待つわけないやん』
沙野子は、そう言った。
が、きっと待ってる筈だと…孝志は思っていた。
希望に近いが、彼のカンがそう訴えていたらしい。
キィ…
ドアを開けると確かにそこには、丸くうつ伏せになった沙野子の姿があった。
そして何故か安堵した。
すっと横に座ると沙野子の肩に手をやり声をかける。
「沙野子さん…」
寝返りを打った沙野子の顔がこちらに向いて、ハッとする。
瞼にきらっと光る物が見えたから。
「…くな…」
何か寝言を言っているらしい沙野子に耳をすませる孝志。
「行くなぁ…孝…」
普段、絶対に沙野子の口から聞く事はないだろう発言に、孝志は驚いていた。
そして沙野子の本音が聞けたようで、胸が熱くなった。