まだいる・・・?
麻美は、窓からアパートの向かいにいるヤギを見下ろした。
相変わらずヤギは地味な色のドレスを着て、真っ直ぐ前を向いている。
「なんなの?だれかのコスプレ?」
麻美は不思議に思った。だが、不思議よりも恐怖の方が大きかった。
単純なモノなのに恐ろしい・・・
何が怖いよ・・・ただの着ぐるみじゃん。
恐怖を押し潰し、麻美は注意しようと外に出た。
ガタガタガタッ
階段を下り、ヤギのいるほうへ。
「あの、そんな着ぐるみ姿でいられたら困るんですけど。他でやってください。」
きつい口調で言った。
しかし、ヤギは答えない。
「ねぇ!聞いてますか!?」
麻美は、着ぐるみの首にあたるところをはずそうとした。
だが、取れない。
「いい加減にしてよ!」
後ろのチャックを調べようとしたが、チャックすらない。
「え・・・」
まさか、このヤギは・・・着ぐるみじゃない?
本物の・・・
「ひ・・・」
麻美は、恐ろしくて座り込んでしまった。
その時、ヤギがこちらを向いた。
「私の坊や・・・坊やはどこ・・・?狼に食べられてしまったの?」
怯えた様子で麻美に近づく。
「狼さん・・・坊やを返して・・・」
ヤギは、麻美の服を掴むと、持っていた大きなハサミで麻美の腹を切ろうとした。
「いやあぁぁーー!!」
麻美は暴れ、ヤギの手から逃れた。
それと同時にアパートへ、無我夢中で走った。
後ろからは、ヤギのヒヅメが鉄の階段を削る音がする。
しかし、麻美は訳が分からなかった。狼とは誰か、何故ヤギが自分を襲うのか。
鍵をかけようとしたが、鍵が壊れていることに気付いた。
麻美は今日、純太の家に来た事を後悔した。