霧の晴れ渡った夕方。
その日の内に西沢の葬儀は執り行われた。
遺体はとうとう見当たらず、棺には銃と私物のみが詰められ、流された。
一つ、また一つと人が艦内に消えていき、ハルも敬礼を下ろし、立ち去ろうとした。
そこには一人たたずむ狩野の姿がある。
最後の一人だと思っていたハルは驚き、そして、声をかけようとしてはっとした。
狩野は肩を震わせ、敬礼も忘れて泣いていた。
「隊長……」
ハルの言葉でやっと自分が泣いていた事に気付いたのか、目元を擦って、しかし、振り向こうとはしなかった。
「立派な最後でした」
「……」
あと少しアメリカ軍の到着が早ければ、もしかしたら西沢は助かったかもしれなかった。
そして、西沢は狩野の事を……
「西沢伍長は…」
「愛していた」
棺が流れた先。海の彼方を見つめ、狩野は目を細めた。
「お互い生きて戦争を生き抜いたら、プロポーズするつもりだった。……とうとう渡せなかった」
棺に入れる事が出来なかったダイヤの指輪を手のひらで弄んで、狩野は泣いた。
ハルは大の大人が声を上げて泣くのを初めて見た。
鉛色は男の涙を取り込んで尚、堂々と眼前を流れる。