『未來こそ休んじゃえば?!会社。』
悪戯っぽくそう言って、彼女は笑った。
『僕、一度家に帰るね。もしかしたら遅刻するかもしれないけど、部長に怒鳴られるのは慣れてるし。』
洗面台で顔を洗い、急いで歯を磨く。
『マジで?!スーツだったら、店が開店したら買えばいいじゃん。
その代り、遅刻は免れないけど。』
ベッドの中で寝ていた彼女は、上半身だけ起き上がらせた。
『いや。午後からの会議の資料も、家に持ち帰ってたのを忘れてた。やっぱり帰らないとマズいんだ。』
そうだ。こんな呑気に話している時間は僕には無いのだ。
『未來急いで!!
札幌駅六時十二分発小樽行き、間に合うかもよ!!』
焦っている僕に、彼女は落ち着いて、携帯サイトで電車の時刻を調べてくれた。
『そ、それじゃ、エリカちゃん。
具合が悪いなら無理はしないでね!!
昨日は楽しかった。
僕こそありがとう!!』
慌てているので、言葉がぐちゃぐちゃだった。
『未來!!これ、あたしのアドレスと携番。これに空メールして。また一緒にカラオケ行こうよね!!』
そう言って、彼女は小さなピンクのメモ帳を僕に手渡してくれた。
『あ、ありがとう!!必ずするから!!』
電車に乗り遅れる訳には行かない!!
その後の電車は四十分後だから。
僕は、ホテルの代金を彼女に渡し、
慌ててドアを開け掛けたその時―\r
『未來!!待って!!』
彼女が僕を呼び止める。
『ジーンズのファスナー‥‥開いてるよ。』
最後までカッコ悪い僕。
けれど十七年ぶりにエリカちゃんと再会出来て――
おまけに楽しい時間を過ごせた昨日の事が、
まるで夢のようで――
僕にとって、最高にハッピーな一日だった――