このベッドの上は幸せだ。12月も後半、卒業論文に追われ、3日の内で3時間しか眠れない瞬一にとってこの時間が風呂上がりのビールの次に幸せだ。もちろんこの日は、その両方を楽しんだ。ただし、卒論に励む院生の田仲さんが研究室で机に隠したアルコール度数の高い酒を飲んでいたのに感化され風呂上がりとは行かなかったが研究室で一番の楽しみのビールは、済ませてきた。至福の時を終え、電気を消しても隣のマンションからの明かりでそれだとわかるピンクの幾何学模様の布団に潜り込み、ウトウトとしていた時、その声がした。
「今何時?」
隣で寝ていた美貴は、同じ大学に通う2年生。専攻は、システム工学だか情報処理工学だか良くわからない理系の彼女。一目惚れで道端で声をかけたのは僕の方だった。眠い目で携帯を半分開け、そして閉じ液晶に緑色に浮かぶ数字を読む
「今、4時10分過ぎ。ごめん。起こした?」
申し訳なく言うと美貴は黙っていた。
「ごめんね。忙しくて晩飯も一緒に食えなくて。」
美貴は壁側を向いたまま外のマンションの明かりのせいで肩を震わしているのがわかった。
「もうあと一ヶ月だから我慢してな。おやすみ。」
僕は女の涙なんて武器だとは思っていなかった。