小雨が降る日の午後。事務所で向かい合っていた真佐美と裕斗達。
依頼の電話を受けた時からかなり深刻な状況なのは理解出来た。それというのも電話口の真佐美の声は暗く、微かに震えていたからだ。
現に向かい合って座っている真佐美は俯いたまま、膝の上で組んでいる手は強く握りしめられている。
タイミングを掴もうとしているのか、真佐美は何度か口を開こうとするがすぐ閉ざした。
そんな重い沈黙の中呑気に欠伸をする夢路。自分がいない間の依頼はまともに出来ているのか心配が絶えない。
「あの……」
ようやく声を発した真佐美。裕斗はそれにすぐ笑顔で応えた。
「はい。どうぞ」
黒目を左右させながら何か考えていると、言葉を選びながら話し始めた。
「夢を見るんです……」
依頼人の殆どはこの台詞からいつも始まる。いくらその専門の人間が相手でも信じて貰えるかという不安があるのだろう。
「私が娘を殺す夢を」
裕斗は目を見開き真佐美の顔を凝視した。
かつて自分も夢路の世話になった。しかしそれは架空間のような夢で、これほど具体的なものではなかったからだ。
「殺す……?」
ニュースで何度も聞いてはいるがどこか他人事だった言葉。実際に真佐美が手に掛けたわけではなくてもあまり気持ちのいいものではなかった。
「娘の首に赤い痣が……前には両手があって、その手は……間違いなく私のものです」
平然と言うその姿に裕斗は気が気でなかった。
例え夢でも自分がもし母親を殺す情景を見たら冷静ではいれないからだ。
しかし真佐美もきっと同じだ。ただ夢に疲れ心のどこかでそれが当たり前になってしまったのだろう。