「咲坂塔子・・・だったか?頼みがある。」
頼むとは言っているが、その声はまるで脅しているかのようだった。
「・・・言ってみろ。」
少し考えて、咲坂は答えた。
「俺をバスターにしろ。」「・・・・・・」
咲坂は黙った。
「どうした・・・答えろ!!」
「・・・ヘタレにも度胸は有ったようだな。」
咲坂はまた、龍一をヘタレ呼ばわりした。
「ヘタレだろうとなんだろうと・・・俺は決めたんだ!!」
ヘタレは強く言い返した。「二度と元の生活には戻れんかもしれんぞ?」
咲坂は龍一を脅した。
「かまわねぇ!!」
それは快い返事だった。
「フッ・・・いいだろう。お前、居場所は?」
「居場所は・・・」
龍一は病室の中を見回した。ベッドにかかっているネームプレートに病院の名前が書いてあった。
「K病院。」
「わかった。今夜十一時にK病院の門の前まで迎えに行く。遅れるな。」
時計は十時を指していた。「ああ、絶対に行く。」
龍一がそう言うと、電話は切れた。
(あと一時間・・・急ぐか。しかし、この格好じゃなぁ。)
龍一が着ていたのはこの病院の白い患者服だった。
病院の門の前に行くには、夜勤の看護師の目を掻い潜らなければならない。この格好では、目立ってしまう。
(何かないか・・・)
龍一はまたバックの中を探し始めた。
(え・・・?)
バックの底にそれはあった。
(学ラン!?何でこんなものが・・・?)
それは龍一がいつも学校で着ている、真っ黒な学ランだった。