その女性は、淡いオレンジのライトに照らし出されていた。腰の辺りまで伸ばした黒く美しい髪。果てしない小宇宙に通じているかのような、澄んだ大きな瞳。透き通った肌。決して失われる事はない美しさ。
坂上浩市はクリスタルのグラスで高価なスコッチを飲みながら、その絵画の中の女性を見詰めていた。
グラスの中の氷は“カラン・・・”と透明な音をたてて、何億年の歴史を終えようとしていた。
あれから何年経っただろう・・・記憶は昨日見た映画のように鮮明に浮かんでくる。大画面のテレビは、もう何ヶ月もつけられていない。
まるで化石のようにただ静かに存在している。
ラベンダーの香りのロウソクの炎をじっと見詰めながら、浩市は絵の中の女性を思った。
「私、モデルやっていいかしら？」
行きつけのバーで美紀は浩市に言った。
「モデル？なんでまた？」「一度、やってみたかったのよ。いつまでも若くないし、今のうちにやりたいの。」
店内はかなり薄暗く、時間の流れを緩慢にするようなジャズが流れていた。
水面の波紋のように、ピアノの音色が重なってゆく・・・
「別にいいけど・・・アルバイトみたいな感じなの？」
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