あの日、私の前歯はぽっきり折れた。
自転車をよそ見しながらこいでいた私は、ハンドルを電信柱にぶつけて、バランスを崩した。
倒れた私は、アスファルトにおもいっきり打ち付けられた。
その瞬間、白い小さなものがぴょーんと飛んでいくのが見えた。
とっさに思った。「あっ、歯が…!!!」
それもつかの間。お腹に激痛が走った。内臓がよじれたのかと思う程。
膝にも痛みを感じ、見ると血がだらだら…
そして、恐る恐る舌で前歯がどうなってるか、確かめてみた。
「欠けてる…2本とも…」
それだけ確認して、お腹の激痛のせいで、あとは何も考えられなかった。
病院の診察が終わり、打ち付けた部分の痛みも落ち着き、鏡でじっくりと前歯を見てみた。
根本は残ってるが、おもいっきり欠けてる。
「頭打って死んでたかもしれないし、これだけで済んで良かった。」
そう自分に言いきかせた。笑ってみると何とも間抜けな顔だった。
あっけない。ある日の一瞬の出来事。
しばらくは電信柱恐怖症だった。