コドモノウタ

ゆうこ  2008-06-07投稿
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雨だ。
霧雨のような、細く柔らかい初夏の雨。
スーツに染み込んできて歩みを重くする。

会社帰り、僕は人通りの少ない路地を進む。
死んだように静かな夕暮れ…雨のせいで家並みまで灰色にみえる。

前方に自動販売機が、白く輝いていた。
喉は渇いていなかったが無機質な明かりに惹かれる虫のように、僕は近づいていった。

雨に洗われたディスプレイ。傘をさしていない僕が見つめ返している。
ふっとその奥に映る、電話ボックスが目に入った…真っ赤な人影が中にいる。

僕は反射的に振り返った…やはり、ない。

電話ボックスがない。
もちろん赤い人間なんていない。

が。

自動販売機のディスプレイには、ハッキリと映り込んでいる…鮮やかすぎるくらいに。

僕はぞっとして…また歩き始めた。

気のせいということにして。

鬱々とした雨のみせた幻…幻…幻だから。

路駐してある車を通り過ぎた時、僕はずっと離れた場所にいる血の粒のような人影を見た…気がした。

駅に着く。

ガラガラの車内で、真向かいのガラスに、僕と赤い人間が一緒に並んでいる…ように見えた。

髪の毛もない。
目も鼻も口もない。
服も着ていない。
肉の塊を人間の形に整えたような代物。

僕はおかしい。


こんなものが見えていると感じる「僕自身」がおかしい。

明滅する車内。

違う、僕が瞬きを繰り返しているだけ。

0・1秒、またたく度、
赤い人間が僕の方を見る
肉塊が振り向き、真正面を見つめる僕を見つめている。

キノセイ

キノセイキノセイキノセイキノセイキノセイ…


ソレが僕の耳に顔を寄せる。



僕は膝に乗せていた鞄を取り落とした。




ま っ てた ぼ くが みえ る ひ と

聞こえない。
僕には何も聞こえない。




そ れ は










きょ うき の
は じま り







肉塊は僕に触れ


僕の内部に はいり こみ


僕 は 消え…





なんなのかしら、あのサラリーマン…。

真っ青になったかと思えば、今はニヤニヤして…気味悪いったらない。

老女は、はす向かいに座る男に不安を覚え、よろめきながら車両を移動するため腰を浮かした。



これから起こる惨劇の匂いに気付いたように。



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