峠を下ると、新谷先輩のスープラが止まっているのが見えた――
あたし達の乗ったGT-Rは、その横に並んで止まった。
バンッ――
新谷先輩が車から降りたのに合わせて、あたし達も降りた。
『奈央ちゃん。どうだった?!俺のドリフト。ちゃんと見てくれた?!』
新谷先輩は、サングラスを外して、あたしに優しい目を向け、そう言った。
均整のとれた優しい顔立ちに、大人の魅力を感じさせる、伸ばしかけの口髭。
へぇ‥‥新谷先輩って、こんな顔してたんだ‥‥‥。
『はい。峠の途中の駐車スペースで、大沢先輩と聖人と一緒に三人でバッチリ見てました。とてもカッコ良かったです。』
あたしがそう答えると、
『そうか。そりゃ良かった。まだ先の長いローンで買った、このスープラも、
奈央ちゃんにそう言われちゃ、走った甲斐があったってもんよ。』
新谷先輩は、そう言って笑った。
『なんだよ、さっきから新谷ばかりカッコ良過ぎだぜ。
ねぇ奈央ちゃん、
俺のGT-Rも乗り心地良かったでしょ?!』
大沢先輩からも、そう質問され、
『勿論です。お二人のゼロヨン対決は、とてもハイレベルな戦いだったって、
車のコトが無知なあたしでも、見てて分かりました。』
―なんて、分かった風に答えては見たけど、本当の所はあたしも凄く緊張していたし、
あまりにも早い展開で変わる目の前の状況に、正直付いて行けなかった。
『良かったな、奈央。ずっと車に乗ってみたいって言ってたもんな。』
聖人があたしに、ニッコリ微笑む。
『うん。今日は、新谷先輩、大沢先輩、本当にありがとうございました。
あたし、今日のこの日のコトは、一生忘れません。』
突然のあたしの言葉に、新谷先輩と大沢先輩も少しだけ驚いた顔をしたけど、
『真面目な女の子はね、もうこんな悪いオジサン達と遊んじゃ駄目なんだヨ!!』
大沢先輩が、その緩めにパーマをかけた茶色の髪をサッと掻き上げた。