ほの暗い街灯が一本、廃病院から少し離れた場所にある。
回りに民家はなく、鉄鋼工場と製紙工場に挟まれる形で、柿崎総合病院はその巨大な姿を曝していた。
これほど大きな廃病院がなぜ取り壊されずに有り続けるのか、というミステリーを、一年ほど前にミスオカ倶楽部で特集したのだ。
アズサと一緒にかなり聞き込みをし、わかったのは…話の種にもならない大人の事情だった。
噂によると工場中に作業員が何人も怪我をして、呪われているだの、院長の行方不明の娘が埋められていて、掘り起こされるのを恐れているからだの言われていたが…実際は借金が問題なだけだった。
多額の負債を抱えた院長が取り壊しにかかる費用を後に建てる予定のマンションオーナーに立て替えるよう要請し、その料金の折り合いがつかないまま、もう四年に渡って長引いているのだ。
開けてみればつまらないパンドラの箱。
今回もきっと、いつもと同じように空振りに違いない。
こうすると「必ず起こるよ」という怪談話が本当だったことは恐らく歴史上一度もないはずだ。
香月はオカルト好きな反面、冷静に分析している自分に苦笑していた。
信じたい、と思いつつ…信じない自分がいる。
四人は物々しい鉄で出来た柵を見上げ、困ったようにお互いを見つめた。
「…これで、小学生が入った可能性はゼロかな」
亮の言葉に香月と雅也は頷く。
「なら噂にも信憑性がないってことで、入ることないんじゃないかな」
雅也の言葉にアズサは
「まだ結論出すには早いでしょ」
と切り返した。
香月はゆっくりと鉄柵の上部を照らす。
2メートルはある鉄柵の上に更に有刺鉄線を張っている。
無理か…前に特集組んだときはここまで警戒されてなかったけど。
浮浪者避けなんだろな。
考えていた香月の横をアズサは走って通り過ぎていく。
鉄柵に沿って。
「アズ!暗いんだから気をつけろよ」
亮の言葉を聞いているのかいないのか。
どんどん突き進むアズサを慌てて三人が…特に雅也が追っていく。
「あ…見て、香月!」
アズサの嬉しそうな歓声に香月も走った。
「どしたの」
「見て…ここ。ここだけ鉄線切られてる」
照らされた鉄柵の上部だけ、確かに鉄線が切り取られていた。
「しかも、ほら…なんか布ついてない?」
切られた鉄線の端に、確かに何か布らしいものが引っ掛かっていた。
亮がジャンプして、むしり取る。
「…子供の、だね」
可愛い苺の柄。