苺の小さなプリントがなされた布。
パステルカラーの水色とビビットな苺の赤の取り合わせは、今時の中学生が着るとは思えない。
いかにも小学生…しかも低学年が着るような柄だった。
「マジかよ。こんなとこに小学生が入ったのか」
「一人じゃなかったんだろうし、夜じゃないのかも…にしたってたいしためんだね」
アズサも感心している。異様なくらい目は輝き、いつもの「最高なネタ」を手に入れた時の表情を香月に向けた。
「行くしかなくない?チビ達さえ入ったんだもん…大人が負けられない」
あんたが大人かどうかは別として、と笑って真顔になる。
「まあ…ここならなんとか抜けられるかな。亮と雅也君は自力で行けるだろうし…あたしらは手伝って貰えばなんとか」
亮と雅也がお互い「げ」という顔をしたのは見なかった事にし、四人は悪戦苦闘してなんとか柿崎総合病院の敷地内に入り込むことに成功した。
改めて、目の前に聳える医院の大きさと荒れ果てた様相に背筋がぞっと鳥肌立つ。
昔、アズサと忍び込んだ夕暮れ時さえ気味の悪かった病院が、今や深夜の静寂のなかでは侵しがたい威厳さえ漂わせているようで…香月はギュッと亮の手を握りしめた。
「大丈夫か」
「うん、平気」
アズサはその様子を微笑んで見ていたが、医院に近付くにつれ、笑顔は緊張に取って代わった。
いくら怖いもの知らずのアズサでも、やはり感じるところがあるらしい。
「さて…その眠り姫を起こしてやるか」
亮の取ってつけたような明るさに、返ってきたのはそれぞれの緊張した目線だけだった…。
「ひどい有様だね」
香月の呟きが、荒れたエントランスに響く。
懐中電灯に照らされたリノリュームの床が踏み締める度にジャリジャリと音がする。
硝子の破片が散っていて大きな物を踏まないようにするのが大変な程だ。
「ここでコックリさんはちょっと嫌だよね、危ないしさ」
アズサもしっかりと雅也の手を取っている。
煌々と照らしている月明かりがなければ、懐中電灯以外の場所は真の暗闇なのだろう。
月に感謝している香月をよそにアズサは目まぐるしく電灯を振りかざしている。
自分たちのたてる音がやたらに響き、それが予想外の場所から聞こえただけで飛び上がる思い。
ミスオカの編集長の癖に我ながら情けない…。
だが、そこはかとなく漂う饐えた匂いや割れた窓から入るウナジを抜ける風などが、心臓を絶え間無く刺激し続ける…。