その乱雑に置かれた手紙に手を伸ばすと達筆な字で美貴の実家がある岡山なまりの文章が綴られていた。
美貴ちゃんへ
一生懸命にやっているか?今日美貴ちゃんに送るためにうちの田んぼでとれたお米をついたから今度送るで。
でも送るのは、まだウチの蔵に残っとる去年の新米じゃけどな。美貴がおらんけんまだまだ余ってしもうとるんよ。この前ウチに連れて来た瞬一くんにも食べさせてあげんさいな。去年の米でも二人で食べりゃ旨いけんね。
また正月には帰って元気な顔みせんさいよ。
ばあちゃんより
一度GWに彼女を車で実家に送った時、ご馳走になった米の味は、まだ鮮明に覚えている。ただ、お婆ちゃんの喋る内容は、なまりが強すぎてあまりわからなかったが。
この手紙を元あった場所に戻した瞬一は、もう一枚の手紙に手を伸ばした。
美貴へ
ちゃんと元気にやってる?おばあちゃんが、あなた達にお米を送るんだって張りきっちゃって。
でね、もう美貴に伝えておかないといけないことがあるの。今日おばあちゃんと病院に行ったらお医者さんが言うの。
「おばあちゃん、もう長くはないかもしれないって。」
美貴、覚えているわよね?あなたが高校生の時におばあちゃんが手術を受けたってこと。今回検診で再発したってわかったのよ。
今年は、この寒さだからお正月を越えられるかどうかわからないって。お父さんは普段通りにしてるけどやっぱり元気がないの。
もし学校の都合がつくなら美貴の元気な顔を二人に見せてあげてほしいの。お願いね。
母
僕はその時初めて気付いたんだ。固く握られた彼女の右手にある秘密を…。