花の調べ 4

朝倉令  2006-05-16投稿
閲覧数[574] 良い投票[0] 悪い投票[0]



「今晩は。 お二人仲良く散歩ですね?」



人の善さそうなお婆ちゃんがニコニコしながら声を掛けてきた。



「どうも、今晩は〜。
この近くにお花の綺麗なお屋敷があるって聞いたものですから。
それに、いいお月さまですもの」


「お花?…… ああ、小村さんのお館ですね。
あそこの旦那さまは花好きでしたから…」



そう言ったお婆ちゃんは、皺の多い顔に少々複雑な色合いを浮かべていた。


それに目ざとく気づいた薫は、何気ない風を装って尋ねる。



「そのお館に何かあるんですか?」


「え…… いえいえ、別に大した事じゃないんですけど……  不躾ですが、あなた方越してこられたばかりですか?」


「ええ、半月ほど前に、この先の高台に引っ越してきたばかりなんですよ。
あ、申し遅れましたが小田嶋と申します。これは妻の薫です」



二人の会話に割り込んだ僕は、言い渋る様子のお婆ちゃんに助け船を出すと薫に目配せをした。



(深く聞かない方がいい)

(…わかったわ)



素直に質問をやめた薫は、「それじゃあ」と会釈をした後、そそくさと退散を始めたお婆ちゃんに軽くお辞儀をする。






「地元では有名みたいね」

「うん。明らかに動揺してたみたいだからな。
あ、風向きが変わったのかな?
ほら、ピアノの音がかすかに聞こえるだろ」


「あら、本当…… すごく透明な音ねェ。
きっと心がキレイな子だと思うわよ」






ピアノの音色を目指して歩くうちに、僕らは目的地の洋館にたどりついていた。


「まさしく〈花の館〉って呼ぶにふさわしい眺めね… まるで花に埋もれてるみたいだわ」


「あはは、君が言う所の妖精さんもいるしね」



二人は花を踏まない様に気をつけながら、ベランダの方へと向かった。






i-mobile
i-mobile

投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 朝倉令 」さんの小説

もっと見る

その他の新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ