「香月、二階いこっか」
アズサに顔を照らされ、眩しさに顔をしかめる。
「階段探そうか…」
暗闇のなか、四人は手を取り合って探し始める。
月も陰り、電灯の輝きのみを頼りにようやく階段を見つけだす。
二階は一階に比べると硝子の残骸が少なく、比較的楽に歩ける。
かつては大病院だった面影を残し、広々とした廊下に今は開かずの扉がいくつも並んでいた。
とりあえず電灯でプレートを照らしつつ、四人は個人の病室が並んでいると思われるフロアーにたどり着いた。
黄ばんだプレートに書かれた205の文字を見るなり、アズサが意を決したように扉に手をかけ、三人に頷いた。
「もたもたしたくないし…見てみよっか…」
ぐっと力を込め、戸を引くと意外にもあっさり開いた。
「…みて……お誂えじゃない?」
どうやら個室らしくなかは広い。シーツさえないアルミベッドがきちんと部屋の隅に置かれ、ひびの入った鏡の掛けられた洗面台まである。
見ればカビがビッシリと台を覆い、香月は慌てて視線を逸らした。
「汚いけどベッドあるし…ほら備えつけの机もあるじゃん。もうここでいいよね、香月」
いつもふざけ半分のアズサまで、さすがに怖いのか笑顔がない。しきりに右肩を撫で、雅也の手を握ったまま離さない。
「うん。はやくすませないとね…」
ショルダーバックに入れた携帯を手探りで捜しだし、時間を見る。
AM1・47
早くしないと2時になってしまう…。
携帯をそのままアズサの自宅で借りたデニムに突っ込みバックから蝋燭、チャッカマン、手紙、コックリさん用の五十音の書かれた紙をベッドの上に置く。
アズサは小さなベッド備え付けの机に蝋燭を立て火を燈した。
途端にパアッと辺りがオレンジの光りに包まれ…入りこんでいた小さな羽虫が火に寄ってくる。
「で、どうするの」
テキパキとことを進める女子二人を、黙って見つめる男二人…。
揺らめく光のなかで、準備は整った。
「やり方は普通のコックリさんでいいって…ただ呼び出す呪文は
天使さま…だって」
天使さまね…。
アズサが手渡した十円を紙の中心に置く。
香月とアズサは呆れる男たちの見守るなか、お互いの指を十円に乗せた。香月は、ハッとアズサを見た。
異様な程、冷たい指…。
「アズサ、大丈夫…」
「大丈夫!ちょっと肩が…痛むけど」
香月の心配そうな目に、平気よ、サイレントで答える。
「始めよう」