あの頃はよかったねと、君が言うから、僕はどうしようもなく切なくなって、涙が止まらなくなったんだ。
僕の生い立ちを知ってる君は、いつだって僕の味方になってくれてたけど、正直僕は、君の気持ちに答えることはできなかったんだ。たとえ、君が僕を好きでいてくれても、所詮は他人だろという、冷めた気持ちが常に心の中心部分にあったから。
ある時、君が言った。
「私はどうなってもいいの。ただ、あなたが幸せになってくれさえすれば」
一瞬、なんのことを言ってるのかわからず、頭がフリーズしたのを、今でもよく覚えている。
結局僕は、君のその言葉になんの言葉も返せず、ただだまって空を見てた。
君と僕が知り合ったのはいつだろう。ずいぶん遠い過去な気もするけど、とても最近な気もするのはなぜだろう。とにかく君は、いつも僕のそばにいてくれた。ただそれだけはよく覚えてる。
「君を幸せにするのは、私しかいないから」
そんな言葉をよく口にしてた君は、いつしか変わり始めたね。だからどうってわけじゃないけど、たぶんあの時から、僕は誰かを信じようと歩き始めたのかもしれない。
君は変わった。何がどうって、上手く説明できないけれど、とにかく変わった。変わってしまったんだ。なぜだろう。
今でも僕は、その理由がわからずに、そして、変わってしまったのは僕のせいなのではないかと、たまに苦悩することがある。
僕がもし…。君の気持ちにちゃんと気付けていたら、君の言葉のひとつひとつを大切にできてたら…事態はまた違ったのだろうかと。
君が変わり始めて、やっと僕も誰かを想うこと知り始めたのに…なんでだろうね、これが「現実」というものなのだろうか…。
「ねぇ、君は覚えている?あの時私が言ったこと。…全部、嘘になっちゃったね…。」
寂しそうに言う君が、なんだかとても小さくて、だけど遠すぎて、僕はやっぱりあの日のように、ただ空を見上げるしかなかったよ。
ごめんね。信じてあげられなくて。君を失って始めて気付いた君の存在。
だけどもう、遠すぎて、僕に言えることは何もなかった。
君に贈ってあげたいものがあって、ポッケの中にぎりしめた小さい箱は、結局渡せなかった。
モットハヤクキヅケテレバ…。
悔やんでも、悔やみきれない思いが心の中に広がって、だんだん鉛になってゆく。
君にはもう会えない。
ごめんね、悠。