箱のなか 10

ゆうこ  2008-06-12投稿
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アズサは、笑った。

それは低い声から甲高く耳障りな声になり…暗闇を切り裂いた。

「アズサ…」

雅也の延ばした手をアズサは振り払った。

「アズ、おい…しっかりしろよ…」

アズサは笑い…突如、口を閉じた。

そして、ゆっくりと部屋を横切り……暗闇に消えた。




「…嘘…いや、冗談よ…ね、亮…」

香月の途切れ途切れの呟きに、亮は我に返る。

「大変だ…香月、雅也、ここにいろ!アズを…連れ戻す!」

「いや、僕が行く!…アズサは僕の…彼女だからさ」

雅也は亮と香月に微笑み懐中電灯片手に走って行ってしまった。

残された二人は蒼白な面持ちで、呆然と立ち尽くしていた。

「今まで…ミスオカ倶楽部やってた時、本当に怖い目にあったことってあるのか?」

亮に唐突に聞かれ、香月は首を傾げた。

「なかった…と思う。気持ち悪いって事くらいはあったけど、今みたいな事は…」

亮は香月の震える唇に気付き、たまらなくなって香月を抱きしめた。
冷たい頬に手の平を当て強く言う。

「大丈夫だから。雅也が連れて来てくれる。きっといつものアズの悪戯、悪ふざけ…」

亮の言葉が掻き消えた。
長く尾をひく叫び声。

「い、今の…」
香月の両目が恐怖で見開いた。

「雅也…!香月、行くぞ…しっかりしろ!」

亮は香月の手を取った。香月は小さく、だがハッキリと答えた。

「行こう!二人を探さないと」




遠く離れた場所から、未だに響く苦悶の叫び。
二人は時折つまづき、放置された椅子や鉢にぶつかりながら、小さくなっていく声を辿った。

亮がふと香月の手を引き寄せ、止まらせる。

「おい…ここ」

亮の足元に明かりが落とされ、香月は息を飲んだ
そこはなにかでべっとりと濡れていた。
亮はゆっくりとソレが真横の戸に続いているのを確認する。
「嫌だ…亮…」

亮は屈み込み、指でぬめりを拭う。
電灯で間近に照らし、ソレが畏れていたもの…血液である事を知った。

血溜まり。
引きずられた跡。

病室の取っ手が真っ赤に染まっている。

香月は喉が異様に渇いているのに気付いた。
亮の息を吐く音。
夢のなかのような奇妙な感覚のなか、亮が取っ手を静かに開いた……。



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