マヤが集中治療室に入って数週間が過ぎた。
その頃は特に昼間にやることもなく、寝てしまっていたため夜に寝れない事が多く、その日も患者用ベッドに横になったまま、ただ天上を眺めていた。
いまだ記憶の片鱗すら掴めずにいた彼だったがいくつか不思議な事がおこっていた。
その時廊下を歩く足音が聞こえた。
そして不思議な事というのがまさにこれだった。
耳が良くなったというには極端すぎる。
おそらくこの足音もこの階を歩き出したばかりだろう。
それほど離れた場所の音が聞こえるのだ。
視力が低下したら他の五感が発達するとは聞いたことがあるが別に視力が落ちたわけでも無い、むしろ聴力どころか五感全てが強くなっていた。
普段は特に感じないが耳をすますと耳が、目をこらすと目がそれぞれ強く感じていた。
そして彼は耳をすます。
聞こえる足音は一つ。
足音はスリッパのようなペタペタした音は感じない。
かといって看護士達や医者が履いているようなゴムシューズともまた違う音に聞こえる。
…例えばそう…つま先に金属が付けられている安全靴とでもいうか…そういった金属混じりな足音…。
その足跡は次第に部屋の方に近づいて来ているのがわかる。
(警備員か?)
部屋まで入ってくることはないだろうが一応ベッドに備え付けられたライトを消す。
今時子供でもあるまいし夜更かしがどうのと注意はしてこないだろうが寝たふりをしておく。
ちょうど病室の前で足音が止まった。
静かにドアが開けられるとその侵入者はスルリと身体を室内に滑らせると後ろ手でドアを閉め鍵をかけた…。
彼は薄目で侵入者を見るとそこには゜マヤ゜がいた…。
「マヤ!お前集中治療室にいるはずじゃ…」
彼は跳び起きてマヤに近づこうとしたとき…。
「…マヤと…しよ…。」
「どうしたんだよマヤ!?それに歩いてるって…治ったのか!?」
彼はマヤの肩を掴み顔を見るとマヤは虚ろながらも赤い瞳をして笑っていた。
「ねぇ…マヤと殺し合いしよ…?」
「な…?何言ってんだよ…おい!?マヤ!?」
「ねぇ…殺し合い…しようよ。あはっ…はははっ…はははははははははははははははははははははははっ」
そういった矢先にマヤの右腕が刃物の用に光り、空を切り裂いた。