「アズサ!」
亮とアズサが二人、声を揃える。
「大丈夫よ、何かあったら電話する。携帯持ってるし…って、持ってないや…手提げ、そういえば無くなってる…」
アズサは初めて気付き唇を噛んだ。
亮も愕然とする。
「俺も…最初、コックリさんやった部屋に鞄ごと置いてきちまった!あの時みんなの鞄、ベッドの端に置いたんだよな」
アズサはアッと声をあげた。
「そうだった…私が無意識で置いたからみんなつられちゃって…。わたしまるで疫病神だね…」
香月は自分のデニムの僅かな重みが携帯であることを思い出した…が、二人が持っていないのなら意味はない。
「大丈夫、なにかあったら大声で叫べば聞こえるよ…ひ」
悲鳴が聞こえたみたいに…。
そうつづけそうになった舌を、香月は思い切り噛んだ。
「よし。お前も気をつけろよ?雅也を見つけたら叫べ!飛んで行くから」
香月はコクリと頷いた。
かくして、香月は雅也が出口に向かっていると想定して一階部分へ。
二人は二階と三階を捜すことにした。
香月も見つからなければすぐに上に向かうと約束する。
アズサを捜して走り回って、自分の居場所さえ、出口さえ解らなくなってしまっている。
一人と二人は全く違う方向へと走って行った…。
香月は亮の電灯の光が消えるまで見ていたい欲求を押さえ、振り返ることなく一階へと続く階段を探し続けた。
その間中、頭のなかは回っている。
しかし今、重要なのは雅也がどこにいるか、ということ。
それだけだ。
「アズ、離れるなよ」
「うん…」
アズサは亮の裸の上半身を見て、申し訳なさそうに返事した。
血に濡れた自分のパーカーを思い出し、ギュッと目をつむる。
凄く気持ち悪かった…。
暗闇に慣れてきた目は、電灯と月の僅かな明かりでも人の表情を映し出すことが出来た。
亮は自分を恐れていない…。
そのことが、何より嬉しかった。
亮は、背後からついてくるアズサに注意を向けつつ、雅也を捜していた。