亮はアズサに気を配ってはいたものの、一人きりで香月が一階に向かって行ったのが心配でたまらない。
雅也があの状態でどこかに消えたのも、生きていてホッとしたと言うよりは…どこか違和感を感じずにはいられなかった。
そんな考えが頭を過ぎった瞬間、ガツンと何かが後頭部を直撃した。
……あ……アズ……?
亮が振り向いた時、一瞬電灯が背後の人間を照らしたが、それが誰だったのか確認することなく亮は意識をなくした…。
一階部分を捜索していた香月は、自分の心が段々と固まっていくのを感じていた。
何かが形を作っている。漠然と胸を過ぎる感覚。
死んでいるようにみえたのに生きていた雅也。
手紙から始まった少女の霊…。
いやな予感と確信…。
香月はふっと巡らせていた電灯を降ろし、ポケットを探った…。
「ちょっと…どういうこと?なんでこんな事…」
意識なく倒れた亮を、アズサは見下ろし、殴った張本人を睨み付けた。
血にまみれた雅也は鼻をならす。
「死んでないから安心しろよ。大体、こいつがいたら邪魔だろ。…まあ元々目障りだったんだ」
亮の爪先を汚い物ででもあるかのように足先で弾く。
「やめてよ、意識が戻っちゃう。とりあえずそこの部屋に入れて」
アズサの指示に雅也は大人しく従った。
手近な部屋に入れ、雅也の持っているオレンジの手提げからチェーンを取り出す。
「あーあ。その手提げ気に入ってたのに…血で汚れちゃって」
雅也は楽しげに笑った。
「お前のパーカーもな。入れたよ。ほら」
得意げにビニールに入った血まみれのパーカーをアズサは一瞥もしなかった。
「早く。亮に気付かれたら死体が増えるよ」
雅也は正体なくぐったりした亮の口にガムテープを巻き、手足をグルグル巻きにした。
アズサは優しい微笑みを雅也に向けた。
「上出来よ。ありがとう雅也…」
アズサと雅也は暗闇のなか、抱き合った。
「君のためなら何だってやってやる…」
「知ってるよ。あんたあたしのストーカーだもんね。いっつもあたしの後つけてた…あたしの計画知ってるって公園で言われた時、正直焦った」
「ごめん。気になったんだ。なんで君があんな所に一人で行ってるのか」
アズサは弁解する雅也の唇を奪った。
驚いたように目を見開いた雅也の両腕が、震えながらアズサを抱く。
「大好きだよ、アズサ…気が狂うくらい」
アズサは微笑んだ。